リンツァートルテ1

今回は世界最古のトルテ、リンツァートルテのお話です。
神聖ローマ帝国の時代、そしてさらに遡って古代エジプト時代にはすでに似たような物が存在していたと言われているミステリアスなトルテ、
リンツァートルテ。

1653年にスロベニア出身の伯爵夫人、アンナ・マルガリータ・ザクラシモンが、「保存食の本」を書き上げました。
この本は保存食全般のレシピが何と490点も載っているそうです。冷蔵技術のない時代におけるまさに先人の知恵とも言える本です。
そしてこの中に、今回のヒロイン、リンツァートルテのレシピが何と、4種類も載っています。(トルテはドイツ語では女性名詞ですので
ヒロインとさせていただきます)
これが世界最古のトルテのレシピというわけです。

そう、ここまではごく普通のお話ですが、この本、いったいどこで見つかったと思いますか?「そりぁ、リンツでしょ」…そう、大半の方はそう思われますよね。
ところがこれはリンツではなく、シュタイヤーマルク州にあるアドモント修道院の図書館に350年以上もひっそりと眠っていたものを、館員が見つけ出し、2005年にようやく陽の目を見たと言うわけです。
では  なぜその本がそこにあったのか…それは今だに謎に包まれたままです。
そしてそれにはリンツァートルテの考案者の名前も記載されていませんが、当時はその地に由来した名前をつけるのが
通例だったようです。

とは言うものの、私がウィーンに住んでいた頃、「リンツァートルテはウィーンのパティシェ、リンツァー氏の作!」という記事が新聞の一面を飾り、
恩師や友人達も興奮気味に読み上げてくれたことを今でも覚えていますが…。 「 真相は闇の中  」でしょうか?
 
  さてこのリンツァートルテ    、お味もさることながら見た目も華やかですので、バロック時代には王侯貴族や富豪達の祝宴には、必ずと言っていいほど食卓を賑わせていたと言われています。
ここでリンツァートルテの材料を申し上げましょう。
皮付きアーモンド粉、小麦粉、バター、卵、砂糖、香料(シナモン、カルダモン等)。
今でこそ何ということのない材料ばかりですが、当時、香辛料は大変貴重な上、高価なものでした。
特にシナモンと胡椒は信じられないくらいの高値で取引きされていた贅沢品でしたので、
一般庶民には高嶺の花であったことは、言うまでもありません。
そして18世紀に入ってからは、ヘーゼルナッツも使われるようになったことを、付け加えておきます。
焼き菓子と言えども「クーヘン」ではなく「トルテ」、しいては「トルテの女王」と、名づけられて当然。 今さらながら納得
させられます。
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そしてビーダーマイヤー時代(1815〜1848)からは、専用の丸い箱も作られて、遠方へ(海外へも)送られ始めたと言われています。
まさにザッハトルテ同様、オーストリアのスィーツ大使ですね。

さて、リンツァートルテ    のレシピが見つかる間、どうしてこんなに有名に、そしてリンツの「顔」となったのか、
まだまだ謎は深まるばかりですが、それはまた次の機会にお話ししたいと思います。

次回はリンツァートルテ を広めたリンツのパティシエのお話や、絵画や音楽にも登場したリンツァートルテ のお話をいたしますので、またお付き合い下さい。

           それでは また。